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東京高等裁判所 昭和53年(ラ)1347号 決定 1979年2月27日

抗告人

ラオツクス株式会社

右代表者

谷口正治

右代理人

松本栄一

相手方

山内秀也

外二名

主文

原決定を取り消す。

本件を浦和地方裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。抗告人の本件申立てを認可する。」との裁判を求めるというのであり、その理由の要旨は、「家庭用電気機器は、一時期を過ぎれば半値以下となり、二時期以降はほとんど無価値となるのであつて、これは衆知の事実である。殊にクーラーにおいては、これが顕著である。よつて、原決定を取り消し、抗告人の各申立てを認容して換価命令を発することを求める。」というのである。

そこで判断するに、記録によると、抗告人は、昭和五三年一〇月五日、相手方山内秀也に対し、浦和地方裁判所昭和五三年(ヨ)第五二八号有体動産仮処分申請事件の仮処分決定に基づき、同人の占有に係る原決定別紙物件目録記載の三菱ルームエアコンMS二二〇R一台につき「同物件に対する同人の占有を解いて、執行官にその保管を命ずる。」旨の執行をし、同月三日、相手方町田隆司に対し、同裁判所同年(ヨ)第五二九号有体動産仮処分申請事件の仮処分決定に基づき、同人の占有に係る原決定別紙物件目録記載のビクターカラーテレビC一八六八E(台付)一台及び三菱ルームエアコンHS二二〇二R一台につき右同内容の執行をし、同年九月二八日、相手方佐藤勝義に対し、同裁判所同年(ヨ)第五三〇号有体動産仮処分申請事件の仮処分決定に基づき、同人の占有に係る原決定別紙物件目録記載の三菱クリーンエアコンVGC四OHC一台につき右同内容の執行をし、次いで、相手方らを被告として、浦和地方裁判所及び同裁判所越谷支部に右各物件の引渡しを求める訴訟を提起し、右各訴訟事件は現に係属中であること、右各物件は、いずれも電源が取り外され、使用不可能の状態において執行官の保管に付されているが、家庭用電気機器は、昨今その改良が日進月歩の状況であり、殊にカラーテレビについてはしばしばモデルチエンジが行われるため新機種も短期間のうちに旧製品と化するに至ることが多く、ルームエアコンにおいても夏季を過ごせばその商品価値の減少が顕著であつて、これらの商品価値の減少の程度は、その物件が未使用のままであつたとしても差異がないこと、抗告人は、右各物件につき仮処分を執行したものの、右各物件の商品価値(交換価値)が日時の経過に伴い著しく下落してしまうことをおそれ、同年一一月二四日、執行裁判所(浦和地方裁判所)に右各物件の換価命令を申し立てたこと、以上の事実を認めることができる。

ところで、有体物産に対する仮処分は特定物の給付請求権の執行保全を目的とするものであるところから、係争物に関する仮処分につき民事訴訟法第七五〇条第四項の規定の準用を否定する見解も存在するけれども、当該係争物が滅失毀損するのを放置し、著しく価額が減少してもなおかつ常にその物自体を債権者に給付すべきものであるとし(この場合には、結局実質的には仮処分の目的物の価値の保存がなされないこととなる。)又は係争物の保管のため不相応な費用がかさむような場合にもその物自体を確保しておくべきものであるとするのは、必ずしも債権者の意図する目的にかなうものではないと考えられるので、これらの場合において、債権者が係争物に対する給付請求権の行使を断念し、これに代わる金銭の補償をもつて満足を得ようとするときは、同項の規定の準用を肯定し、同項所定の執行手続を措ることを肯認するのが相当である。

そして、右認定の事実によれば、前記各仮処分決定に基づき執行官の保管に付された各物件については、仮処分の執行をそのまま継続することにより著しく価額が減少するに至るおそれがあると認めることができるから、抗告人の右各物件に対する換価命令の申立てはこれを認容すべきである。

そうすると、原決定は失当であるから、これを取り消すこととし、事件につき更に審理を尽くさせるため本件を原裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。

(貞家克己 長久保武 加藤一隆)

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